化粧品専門店流通では、ここ10数年にわたり、後継者問題を要因とする廃業が続いている。コロナ禍が明け、リアルの体験価値が上がっている現在も店舗数の減少は続いており、専門店チャネルを創り上げてきた制度品メーカー及び既存の化粧品専門店においては、未だ解決策は見いだせないままとなっている。その一方で、ポーラザビューティー有する「ポーラ」では、新たに「OMO戦略サロン」を展開すると発表。2027年までに、出店・リノベーション合わせ300店の出店を計画している。この動きがプレステージ領域においてどのような影響をもたらすかが注目される。(中濱)
■減少辿る専門店の行く末懸念
コロナが明け、国内の化粧品市場全体としては緩やかな回復がみられる中で、化粧品専門店流通においては各制度品メーカーのヒット商品という後押しがあったこと、またリアルでのカウンセリング需要の高まりを受け、「今年はコロナ前の19年の売上、もしくはそれ以上を目指す」と意気込みを見せる専門店も多く、立地や地域性など多少の差はあれど、前向きに捉えている経営者が多い。
その片側で、化粧品専門店の廃業店数は深刻さを増している。全粧協における10年前の加盟店数は約6000店だったが、現在では4000店を割り込んでおり、この10年間で2000店が減少。
店舗数減少の主な要因としては、以前から課題として挙げられていた「後継者問題」にある。記者が親しくしていたお店も、この1年で数店が後継者難によって廃業を余儀なくされた。廃業された経営者に話を聞くと「コロナが明け業績は好調。お客様からも『継続してほしい』との声もあり本当に残念。できればお店を続けたかった」と語っていたのが強く印象に残っている。
この課題について、制度品メーカーも専門店も、果たしてこのまま手を打たず見過ごしたままで良いのかと、記者は強く危機感を抱いている。何故ならば、メーカーにとっては何十年に亘り地域に根差し、育成してきた顧客がゼロになってしまうだけでなく、予期せぬ先に事業譲渡が行われるといった懸念もある。また専門店にとっても、このまま減少が続いたならば、専門店流通自体の弱体化に繋がり、ひいては、専門店専用ブランドの維持も難しくなるかもしれない。
このように、コロナ禍を経て、リアルでの体験価値が再度注目を集めているにもかかわらず、専門店の数は年々減少、中には専門店の空白地帯ができてしまう地域も出始めているなど、何も対応策が講じられないまま店舗数だけが減っていくという現状が続いている。
■ポーラが出店攻勢の構え - 27年に戦略サロン300店
そうした中、「ポーラ」では逆の動きを見せ始めている。ポーラの売上は国内が8割強を占め、うちECは6・7%と、ほぼ百貨店と委託販売で構成されている。中でも、全国約2700の店舗を展開、約23000人の美容のスペシャリスト「ビューティーディレクター」による、いわばメーカー直営の化粧品専門店と言える「ポーラザビューティー」が6割を占めており、ポーラの中軸的存在として強みを発揮している。
そして昨今、ポーラではECや百貨店の顧客を、ポーラザビューティーなどエステサロンに送客を行う「OMO戦略」を強化してきた。その結果、「肌分析」や「エステ」がチャネルをまたいだ購買に繋がることを確認、今後はオフラインでの顧客接点を更に強化していくことで、ポーラ国内のCAGR(年平均成長率)を2~3%上げていく構えだ。
具体的には、大都市及び地方都市の好立地に、新たに「OMO戦略サロン」を展開。25年に約50店(うち大都市型5店)、26年に約150店(同10店)、そして27年には全国主要都市に300店体制でサロン網を整備する出店攻勢をかけていくことで、強固な顧客基盤体制を構築していく。
また「化粧品専門店」も新たなオフラインの接点場所として拡大していくと述べており、より〝リアル〟での取り組みを強化・加速していくことが見て取れる。
次に、売上でみると、コーセーグループのハイプレステージ及びプレステージブランドからなる「化粧品事業」は2400億円。アルビオンの売上580億円を覗くと、コーセー単体の売上は1820億円となる。一方、ポーラの「ビューティケア事業」は1684億円と、売上規模は僅差となっており、今後ポーラの出店攻勢がプレステージ領域においてどのような影響をもたらすかが注目される。
今後も専門店は後継者問題による店舗数減は避けられないだろう。しかしながら、このまま何も策を講じなければ確実に既存顧客が減ることは間違いなく、またECの強化だけでは全てを補完することは難しい。その間にも、着々と他メーカーによるリアル市場への参入・強化は高まっていくと予測される。
リアルの体験価値が高まっている今こそ、〝人を介して美と健康を伝える〟という、唯一無二の流通である化粧品専門店の未来を守ることこそが、今制度品メーカーと専門店に課せられている真の課題ではないだろうか。
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