top of page

【日本商業新聞 コラム】-704- 便乗

日本商業新聞

団塊農耕派が化粧品会社に入った頃、この会社の伝説的なブランドの化粧水は600円だったが、それから半世紀が過ぎた今でもその値段は変わらない。



当時値上げをためらうそのアナクロな姿勢に疑問を持ち、時代に合った価格に改訂すべきと唱えたが、物価が数倍になっても会社の方針(美学もしくは哲学)が変わることは無かった。消費者主義という社訓を守り続けてきたわけで、そんな先人や元同僚に今では拍手を送りたい気持ちだ。


ところがその美学が最近は疑わしくなってきた。値上げのニュースが頻繁に飛び込んでくるのだ。原材料費の高騰がその理由だと説明されれば納得してしまうのだが、本当にこらえ切れなくなってしまったのだろうか、値上げ幅は大きすぎないか、お客やお店の気持ちを慮っているのだろうか、下衆の勘ぐりは限りない。



物価の上昇や政府主導の賃金のアップはたしかに会社の経営に響く。だから多くの企業は値上げに踏み切る。消費者もその道理が理解できるので企業に怒りの矛先を向けることは無い。でも〝良い人〟すぎないか。コメは流通し始めても価格は下がらないし、ラーメンや牛丼の値段は店主のサジ加減で決まってしまう。消費者が製造原価を知らないことから、好機到来とばかりに値上げに走っているのではないか…、消費者は疑心暗鬼になって企業に問いただしてもいいと思うが、心優しい日本の消費者はそんな行動を起こさない。


化粧品専門店もメーカーの値上げの通告に荒波を立てない。信用しているのか諦めているのかわからないが、言われるままのような気がする。「残念なお知らせですが」という前書きでお客様に値上げを知らせしている店を散見するが、残念に思うのなら先ずはメーカーに翻意を求める姿勢を忘れてほしくない。



「値上げになるから今のうちに…、」というお店の対応も美しくない。お客様に安いうちに買っていただきたいという親切心はよくわかるが、団塊農耕派のひねくれ心には商魂のように映ってしまう。「便乗商法」ではないかという批判に抗弁できなくなる。「李下に冠を正さず」の姿勢はこのようなときに発揮すべきだと思う。


「便乗」を辞書で引くと〝巧みにチャンスを捉えて他の権威や行為などを利用すること〟とあり、良い意味には使われないが、化粧品の世界では「便乗」は清濁含めて日常茶飯事に行われている。


模倣品ラッシュはその最たるもので、美味しい市場や技術にはハゲタカやハイエナが集まってくる。隆盛だったころの口紅のプロモーション、昨今ではナイアシンアミド頼りの抗シワ商品ラッシュ、便乗の度が過ぎて商品価値を下げてしまう例だ。



良い便乗もある。シャンプー容器に刻みをいれたり、商品を同じトラック便で運んだり、S社とK社の間には好ましい便乗がいくつかあった。サンケア商品で競っていたS社とKA社の間でもあった。どちらかの商品を宣伝すれば他方も売れ出すことから、一方が宣伝費を減らしたこともあった。その分の費用が中味の研究費に回っていたかどうかはわからないが、もしそうであれば、それは良い便乗と言うことになる。便乗の良し悪しはそれが消費者のためになるかどうかによってのみ決まるものだと思う。

(団塊農耕派)

コメント


bottom of page